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July 2007 Archives

July 10, 2007

新ワードプロセッシング ~ CrossConcept、Template It!の試作 ~

ワードプロセッサー発展の1つの方向性として「概念操作の外在化」をあげ、そのようなソフトウェアの設計指針を提案する。そして、その具体例としてCrossConcept、Template It!、STORYWRITERを試作したので報告する。

The author suggests that externalization of concept operations is the course to set for word processors of the next generation. And also, the author suggests the design pattern of those kind of softwares and reports the study of CrossConcept and Template It! as examples of those softwares.

目次

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1. ワードプロセッサー

ワードプロセッサーとは、文字通り、ことば処理を支援するソフトウェアである。人々はことばを通じて感情や考えを伝えて理解し、判断し、また反目する。ことば処理を支援するとは、このようなコミュニケーションや判断を支援することにつながる。これが、筆者の考えるワードプロセッサーである。

筆者は、このようなワードプロセッサーが行う支援処理、ワードプロセッシングには、まだまだ多くの種類がありうると考えている。そして、それらが実際に提供されること望んでいる。

例えば、この予稿を書いている場面。ディスプレイを前に、キーボードやマウスから手を離し、腕組みして、ムダにCPUを遊ばせ、しかし、頭の中では思いを巡らせている。このような状況は間違っている。

従来「ワードプロセッサー」と呼ばれてきたものは、事実上「ワードフォーマッター」、すなわち、ことばを紙面に配置する組み版支援がメイン機能となってしまったと言えるのではないか。紙面への配置操作が直感的で簡単で配置に自由度があるとき、そのワードプロセッサーで作成した文書は表現力豊かだ、と言われる。

もちろん、ワードプロセッサーにはアウトライン編集機能があって、これは組み版とは区別されるべきである。また、かな漢字変換とも呼ばれた日本語入力機能は、ワードプロセッシングと呼ぶにふさわしい。さらに、あえて言えば、フォーマッティングはプロセッシングの一種であるから、その意味で従来のソフトウェアをワードプロセッサーと呼ぶことは正しい。

しかし筆者は、アウトライン編集のような機能が、まだまだ未開拓であると考えているのである。

ここで、個々のワープロソフトに機能が足りないといっているのでないことに留意して欲しい。本稿で述べる機能は、必ずしも1つのソフトウェアに実装される必要はない。むしろ、機能ごとに分かれた個別独立なソフトウェアとして実装すべきであると、筆者は考えている。

本稿では、そのようなソフトウェアの特徴をあげ、またそのようなソフトウェアの設計指針を提案することで、ワードプロセッサー発展の1つの方向を示す。そして、その具体例としてCrossConcept、Template It!を試作したので報告し、設計指針を検証する。

参考

  • 「ワードプロセッサ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年6月20日 02:31 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org
  • 「ワープロソフト」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年6月9日 15:21 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org
  • 「プレゼンテーションソフトウェア」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年5月20日 00:43 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org
  • 「スライドショー」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年5月29日 13:19 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org

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2. 概念操作の外在化

では、どのようなワードプロセッシングがありうるのであろうか?その1つの方向性として筆者が考えるのは、「ことばによる概念操作の外在化」である。

概念操作の外在化とは、人々が頭の中で行っていると推測される概念操作を、コンピューターディスプレイ上に取り出して表現することである。

これらは、推論や判断というほどのものでなく、「引用する」とか「つき合わせる」といったより基本的と思われる操作である。そこで、「思考」ではなく「概念操作」ということばを使うことにした。

概念操作を外在化したソフトウェアは、本質的に次の特長を持つと考える:

発想支援
ユーザーの思考過程に介入して、新たな発想を促したり、誤りに気づくチャンスを与えることができる。
ディスカッション支援
複雑で繊細な判断を巡るディスカッションで、論点などを参加者が共有しやすくなる。

2.1. 発想支援

概念操作を外在化すると、概念操作の過程にコンピューターソフトウェアが介入することができて、ユーザーが誤りに気づいたり、新たな発想を得たりするチャンスを与えることが可能となる。

これを、かな漢字変換ソフトを例にとって説明する。かな漢字変換ソフトが、漢字入力ソフトではなくて、読みから漢字を含む表記を選択するソフトウェアであることを思い起こして欲しい。人々に、読みから対応する表記得るという概念操作が定着することで、ソフトウェアはその過程に介入することができるようになった。これによって、入力された読みにまでさかのぼって誤りを指摘したり、用語を統制したり、表現の意味を確認したりすることなどが可能となっている。これが漢字入力として発展してきたとしたら、このようなことは困難であったに違いない。

2.2. 一方通行のプレゼンから双方向のディスカッションへ

概念の操作が外在化されているということは、とりもなおさず、概念操作の過程を別の人が吟味できるということである。これは、打ち合わせの場などでのプレゼンにふさわしい。

逆に、従来のプレゼンソフトは、この点については一方通行である。あたかも、議論を封じることを旨としているかのようだ。

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3. 設計指針

筆者は、概念操作を外在化する様々なワードプロセッサーが、実際に数多く提供されること望んでいる。そこで、このようなソフトウェアの設計指針を示すことにする。

3.1. 概念操作の外在化

このようなソフトウェアの特徴を設計指針という観点から整理すると次のようになる。

(1) 代わりに思考するソフトウェアではない。

概念操作そのものを自動的に行ってしまう、つまり、代わりに思考するソフトウェアを設計するのではない。

これは、取り組む順番として、まず概念操作を外在化することに取り組んだ方がよいということである。そのようなソフトウェアを否定するのではない。

(2) 概念を外在化するのではない

そこにことばがあれば、既に概念は外在化されているのであるから、これについてさらに悩むのは、後回しにしてはどうか、ということである。

(3) 概念操作の結果を外在化するのではない

思考の結果を記述するソフトウェアではない。お絵かきツールではない、ということである。

定評のある図解表現はいくつもある。それらは、一定の思考方法を含んでいて、概念操作を見いだすヒントになる。しかし、それら図解の清書エディタを志向するのではないことに留意したい。

3.2. 形のあるアウトプット

何かが判って終わり、ではなくて、判ったことを何か形のあるものに反映できるソフトウェアとする。理由は2つある。

  • 概念操作を職業とする人々の仕事の成果
  • 判るということと、行動すること

ビジネスパーソンは、アウトプットで評価される。苦労したことではなく、問題提起ではなく、ソリューションまたはその提示で評価される。

判って終わりのソフトウェアは、判った気になるだけのソフトウェアになりかねない。

(TBD)

3.3. 標準データフォーマット準拠

標準データフォーマットとの相互運用性を確保する。特にインポート/エクスポートの発想を止め、標準データフォーマットを直接サポートする。

概念というのは単独であるものではない。他者の概念を知って、自分の概念を得て、それを発信する。この流れは概念にとって本質的である。

3.4 単機能のソフトウェア

(TBD)

3.5 CrossConcept、Template It!の試作

概念操作を外在化するソフトウェアとして、CrossConcept、Template It!という2つのソフトウェアを試作した。

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4 CrossConcept

CrossConceptは、XHTMLのリスト2つから、それらを軸として表を構成するツールである。これによって、リストで表現された2つの考えをクロスチェックしたり、その操作を通してリスト自身の構成を検討することが、このツールの目的である。

構成した表や作成したリストは、XHTMLのtable要素、ul要素、ol要素、dl要素としてクリップボードに設定できる。

CrossConceptは次のような使い方を想定している:

  • リストで表現された考えを、リストで表現された別の様々な考えとクロスチェックする。
  • クロスチェックを通して、考えを表現するリストの構成を検討する
  • 様々な考えをクロスさせることで、新たな発想を得る。発散的発想支援。

CrossConceptは、xfy Basic Editionのボキャブラリーコンポーネントおよびxfy Blog Editorの拡張コマンドとして実装した。


図1 CrossConceptの構成

4.1.1. CrossConceptの構成

CrossConceptではリストを軸として使って表を構成する。画面は大きく左右にリスト領域と表領域に分かれる。(図1)

リスト領域にはリストが並ぶ。

表は、リスト領域中の1つまたは2つのリストを、軸として採用して構成される。2つの軸は行または列軸に割り当てられ、軸は行列の見出しとして表示される。この割り当ては「Pivot」ボタンで交換できる。リストを軸として採用することと、それら軸を行列に割り当てることは区別される。

軸の項目の交点に当たる内容はエントリーと呼び、表のセル内に表示される。セルには複数のエントリーが表示されることがある。このため、セルとエントリーは区別する。

エントリーにはカテゴリーを割り当てることができる。カテゴリーにはリスト領域のリストを使う。

また、エントリーを1クリック、2クリックで入力するクイックエントリー機能が用意されている。クイックエントリーの選択肢にも、リスト領域のリストを使う。

4.1.2. リストの4つの役割とクロスチェック

CrossConceptの最大の強みは、軸そのものをチェックし、改善するときに発揮される。

CrossConceptでは、同時に最大4つのリストに、次の4つの中からそれぞれ役割を与えて、相互にクロスチェックすることができる。

  • 表の2つの軸
  • セル内のエントリーのカテゴリー軸
  • セル内のエントリーを手早く入力するときの選択肢軸

左領域のリストを選択して、右領域の各部分にドラッグ&ドロップすることで、リストに役割を与えることができる。

最小1つのリストからCrossConceptを使うことができる。典型的な例をあげると:

例1:

  • 1つの軸で1次元の表
  • 例えば、海外旅行の持ち物チェックリスト

例2:

  • 2つの軸で2次元の表
  • 車の各車種に似合う色は?など。CrossConceptの基本形。

さて、クロスチェックには大きく2種類ある:

セルを埋めるチェック
軸は疑わず、セルを埋めようと頭を使うチェック作業。海外旅行の持ち物チェックリストは、たいていこの使い方。
軸そのものをチェック
セルを埋める作業を通じて、軸そのものを疑うチェック作業。そもそも、車種の分類はこれでよいのか?あるいは、このような分類が適切なのはどんな場合?何とつき合わせる場合か?虹の七色ではないとすると。

この後者、つまり、軸そのものをチェックし改善する作業が、CrossConceptが強みを発揮するところである。

  • 軸そのものへの疑いをインスパイアすること。
  • 疑う対称の軸に4つの役割を持たせて、4つの視点から疑うことができること。
  • この疑う作業にWebページから最大3つの軸を動員することができて、これらの軸は元のWebページでリストになってさえいればよいこと。

参考

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5. Template It!

Template It!を使うと、気になる文章のバリエーションを容易に作ることができる。(図2)


図2 Template It!概観

気になる文章(図中のOriginal部)を選択して、それをテンプレートにして(Template It!部)、そのいくつかの部分を置き換えながら、いくつものバリエーション(Variations部)を作ることができる。

文章を、いわゆる「テンプレ」化するテンプレ・ジェネレーターであり、かつ、そのテンプレからコピペ、すなわちバリエーションを生成するコピペ・ジェネレーターでもある。

テンプレ・ジェネレーター
気になる文章から、コピペ生成機能を持つ様々なテンプレを生成することができる。
コピペ・ジェネレーター
テンプレから、コピペのバリエーションを容易に生成できる。

図2で、「Template It!」部がテンプレであり、「Variations」部に並ぶのが生成されたコピペである。

一番の狙いは、テンプレを介すことで、バリエーション作成の敷居を低くすることで、バリエーション作成を促し、テンプレそのものや、バリエーション生成過程から様々な気づきを引き起こす(inspire)ことである。特に、元の文章について様々な発見をするであろう。すなわち、テンプレやコピペを作る作業を通じて、元の文章を深く読むことができ、かつ、そのときの理解を踏まえて、新たな文章を作ることができる。文字列一括置換機能との違いに留意して欲しい。

図2の例では、「罪を憎んで人を憎まず」という格言から、「遅刻を憎んで人を憎まず」、「バグを憎んで部下を憎まず」、「記録を称えて人を称えず」といったコピペを生成する作業を通して、もとの文章のうち「罪」、「憎」、「人」部分を置き換え可能な変数部としたテンプレも得られた。

この例のユーザーは、この作業を通して、「罪を憎んで人を憎まず」という格言の意味的な構造に触れただろう。その理解を得たがゆえに、「では、バグを憎んで部下を憎まずにいられるか」と格言の意図を自分に引き寄せてみたり、「では、記録を称えて人を称えないのか?」と格言の弱点を突いてみたりしたのである。

Template It!は、XHTML文書の一節を入力として、それをOriginalとする。また、結果のVariationsはXHTML文書のフラグメントとしてクリップボードにコピーすることができ、それを別の文書に貼り付けることで成果を利用できる。

参考

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6. 考察

設計指針に基づいて、それぞれの試作を検討する。

6.1. 概念操作の外在化

CrossConceptでは、リストを組み合わせてクロスチェックするという概念操作を、コンピューター上に表現した。

Template It!では、文章の部分を置き換えるという概念操作を、コンピューター上に表現した。

これら概念操作の外在化によってそれぞれのソフトがもたらす効果は、述べたとおりである。

これらは、代わりに考えてくれるソフトウェアではない。むしろ、ユーザーに考えることを迫る。

6.2. 形のあるアウトプット

CrossConceptでは、作業の成果を、チェック結果の表、あるいは改善されたリストという形でアウトプットできる。

Template It!では、Originalの理解に基づいて、テンプレやコピペがアウトプットされる。

6.3. 標準データフォーマット準拠

CrossConcept、Template It!どちらも、XHTMLを入力とし、アウトプットもXHTMLである。

WebからリストやOriginal文章を得て、成果をWebに発信することができる。Webから情報を得て、Webに発信するという、Blogに代表される情報の流れに、自然に当てはまるソフトウェアとなっている。

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7. 結論

ワードプロセッサーの1つの方向性として概念操作の外在化をあげ、そのようなソフトウェアの設計指針を提案し、その具体例としてCrossConcept、Template It!を検討した。これを通して、設計指針がよく定義されていることを示すことができ、また、設計指針があることをもって、ワードプロセッサーの1つの方向性を示せたと考える。

文献

  • 「ワードプロセッサ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年6月20日 02:31 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org
  • 「ワープロソフト」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年6月9日 15:21 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org
  • 「プレゼンテーションソフトウェア」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年5月20日 00:43 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org
  • 「スライドショー」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2007年5月29日 13:19 (UTC)、URL: http://ja.wikipedia.org
  • "HTML 4.01 Specification", W3C,W3C Recommendation,24 December 1999
  • "XHTMLTM 2.0", W3C,W3C Working Draft,27 May 2005
  • xfy Community、株式会社ジャストシステム、URL: https://www.xfytec.com/community/
  • 益子 貴寛、"Web標準の教科書―XHTMLとCSSでつくる"正しい"Webサイト"、秀和システム、2005年7月
  • CrossConcept、山口琢、URL: http://www.yamahige.jp/cross-concept/
  • Template It!、山口琢、URL: http://www.yamahige.jp/template-it/

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