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0. 思考の過程を助けるマーカー: STORYWRITER

(このセクションは、発表原稿を投稿した時にはありませんでした。また、関連する発表「Parallel Narratology試論 ~ ハイパーテキストにおける相互参照の観点から ~」の発表原稿においても、原稿枚数の制約から記述できなかったものです。しかし、内容を分かり安くするために、発表当日(2007/7/27)に追加説明したものです。)

マーカー: 『藪の中』続き…

この前の発表「Parallel Narratology試論 ~ ハイパーテキストにおける相互参照の観点から ~」で紹介したSTORYWRITERの機能を、マーカーという観点から見直してみよう。

STORYWRITERは主に2つの機能から構成されている:

  • 文書に対する、構造化された電子マーカー(傍線を引くツール)
  • 構造化された傍線(マーク)を基に文書の部分を平行表示する、並行リーダー(parallel reader)

構造化された電子マーカー

構造化された電子マーカーは、次図のようなUIを持つ。

図 0.1: 構造化電子マーカー

ここでは、『藪の中』の「夫はどんなに無念だったでしょう。が、いくら身悶えをしても、体中にかかった縄目は、一層ひしひしと食い入るだけです。」という部分に傍線が引かれている。この傍線は「アイテム」という観点から「縄」という分類がされている。

画面右ペインには、利用可能な傍線がリストアップされている。「アイテム」、「表情」という観点で大きく2種類の傍線が用意されており、「アイテム」傍線にはさらに、「縄」と「血」という2種類がある。このように、傍線は2階層に構造化されている。「アイテム」、「表情」といった観点は、利用者が使いながら自由に導入できる。

図では利用者は、別の「表情」という観点からも傍線を引くことができる。

図 0.2: 傍線の観点の選択

並行リーダー

並行リーダーは、このように電子マーカーで引かれた構造化された傍線を基に、文書の部分を並行表示する。

図 0.3: 並行リーダー

画面左ペインで、右下に「M」マークのある「アイテム」、「表情」はマーカーで利用した、傍線の観点である。右下に「S」マークのある「当事者」、「夫婦」は、文書のセクションを選択するもので、「当事者」は『藪の中』から「多襄丸の白状」、「清水寺に来れる女の懺悔」、「巫女の口を借りたる死霊の物語」の3つの部分を選択している。「夫婦」は「清水寺に来れる女の懺悔」、「巫女の口を借りたる死霊の物語」の2つの部分を選択している。

STORYWRITERの並行リーダーでは、このようなマーカー(傍線)、セクション、さらにファイルという3種類の軸から2つを組み合わせて、文書の部分を並行表示する。図 0.3では、「当事者」という軸と「アイテム」という軸を組み合わせて、「縄」や「血」についての当事者たちの主張の違いを見ている。

「Parallel Narratology試論」では、図 0.4のように、「当事者」と「表情」という軸を組み合わせて並行表示し、次のように『藪の中』を読み取っている。

芥川作品を小さな単位( セグメント)に区切って、さまざまに操作してみると、一つの事象について、複数の視点からの記述がある部分は、案外少ないことも、容易に明白となる。

なかでも、女が犯された直後の三人三様の視線描写は、本芥川作品の焦点ともいえる部分であり、他者の視線をそれぞれがどう解釈するかが、その後の物語の展開の相違を引き起こす結節点となっている。

「Parallel Narratology試論 ~ ハイパーテキストにおける相互参照の観点から ~」

図 0.4: 当事者の「眼」

2種類のマーカー

このようにSTORYWRITERを使った『藪の中』の《読み》を、従来のソフトウェアで実装されてきたマーカー、例えば注釈機能と比較してみると、次の違いに気づく。

  • 思考の結果を表現するマーカー: 従来のマーカー、注釈機能
  • 思考の過程を助けるマーカー: STORYWRITERのマーカー

1つの傍線がどちらか1つだけの機能を果たすことは希であろう。しかし、この2つの区別が、本報告の焦点である。

思考の結果を表現するマーカー

修正指示などのために引く傍線である。修正指示者の査読や校正の結果を執筆者などに伝えるために使う。これは、思考の結果を表現するものと考えられる。

  • 注釈、修正指示
  • 後の行程へつなげる方向で進化
  • 文書管理、ワークフロー

思考の過程を助けるマーカー

本や雑誌を読むときに、赤ボールペンで傍線を引きながら読むことがある。これは、全部読んでから引くものではなく、読み進めながら引き、後から戻って確かめたりするものである。

このような傍線は、読む過程、すなわち思考の過程を助けるものと考えられる。

  • 本や雑誌記事を読むとき、赤ボールペン

参考

  • ParallelNarratology試論一ハイパーテキストにおける相互参照の観点から-、小林龍生(ジャストシステムデジタル文化研究所)・山口琢(ジャストシステム)、情報処理学会 研究報告 デジタルドキュメント 2007年7月 Vol.2007 No.77
  • 藪の中、芥川龍之介、青空文庫青空文庫

    底本データ

    底本:芥川龍之介全集4
    出版社:ちくま文庫、筑摩書房
    初版発行日:1987(昭和62)年1月27日
    入力に使用:1996(平成8)年7月15日第8刷
    校正に使用:1996(平成8)年7月15日第8刷
    底本の親本:筑摩全集類聚版芥川龍之介全集
    出版社:筑摩書房
    初版発行日:1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月

    工作員データ

    入力:野口英司
    入力:平山誠
    校正:もりみつじゅんじ

目次

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